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映画「チョコレートドーナツ」を初めて舞台化!演出・宮本亞門さんインタビュー



ゲイの男性が育児放棄された障がいを持つ子どもを育てたという実話に着想を得て制作された
映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』(2012)が、宮本亞門さんの演出で、初めて舞台化されます。
原作の映画に「大感動した」という宮本さんは、今回、どのような演出をされるのでしょうか。
舞台への意気込みや、東山紀之さんや谷原章介さんらをキャスティングした理由などを聞きました。

今回、世界初の舞台化です。まずは意気込みをお願いします。


2015年に舞台化のお話をいただき、原作の監督と脚本を手掛けたトラヴィス・ファインさんとお会いしました。舞台化しようと大盛り上がりして、いよいよ実現します。純粋にうれしいです。

原作の映画は、大感動しました。でも、内容が内容なので、日本では大劇場ではなく小さな劇場で1館のみで上映がスタートでした。映画コメンテーターのLiLiCoさんが頑張ってくれて、少しは評判にはなりましたが。

米国でもメジャーなハリウッド映画ではないのだけれど、テーマが意義深いし、何よりアラン・カミングの演技が凄まじくて!彼の舞台やコンサートをいくつか見ていますが、この本気度は生半可でなく、すごくシビアだなと思いました。

ルディとポールという人が本当に愛しあい、障がいを持つマルコを自分の子どものように愛しく思って。けれど、法律という巨大な壁にぶつかって。それでもがく姿に感動して、あぁ、今も日本も何も変わっていないと思ったんです。同性婚も、アダプトすることも、法律的には正式に許されていないんです。今の社会をそのまま表している内容だなと思いました。

舞台化にあたっての構想を教えてください。


映画は、見終わった後にもいろいろと考えてしまうような、「救いはないのだろうか?」と思ってしまうような、痛みと重さがありましたが、今回は舞台版として、ショーパブのダンスをより多く盛り込むなどして、エンターテインメントの要素を入れています。

僕が映画の中で特に好きなシーンは、ルディとポールが、まるで両親のように、マルコのためにおもちゃを買ってきてあげたり、オルゴールを置いたりするシーン。偏見なく、男だから女だから、ダウン症がある子だからない子だからと一切関係なく、二人がドキドキしながら、マルコを思っている姿に、きゅっと心が熱くなったんです。舞台ではそういうシーンも大切にしたいなと思います。

今回は、シンガーを夢見ながら、ショーパブの口パク・ダンサーとして日銭を稼ぐルディ役を
東山紀之さんが演じられます。キャスティングの理由を教えてください。



東山さんは『さらば我が愛 覇王別姫』や『サド侯爵夫人』で女形や女性をやられていることもあって、セクシャルマイノリティーの役を挑戦済みだから抵抗はないと思ったこと。
それに、東山さんはとても責任感があって、真面目な方だと思います。また、本当は「ダイブしたい」、「ジャンプして違う自分を演じてみたい」という気持ちが奥底でおありだと思うんです。その気持ちがあるから、この役を受諾していただけたのかと。
 
だからその意気込みたるや。本物でしょう。映画の中でルディを演じたアラン・カミングの演技を見たら、普通だと怖いんじゃないかと、思うので。

ルディは、おかしいことはおかしい、変なことは変とだと思うと、忖度などせず、実行にうつせる純粋さと体当たり的な行動力がある人です。だから本気で社会と戦い続け、悩み、そして歌う。
きっと東山さんの人生でもこんな役はなかったと思いますよ。役者冥利に尽きるし、役者として存分に楽しんでいただけると思います。

ゲイであることを隠して生きる検察官のポール役を演じる谷原章介さんに関しては。


谷原さんは本当に真面目な方で、優しくて、理知的な方。ポールもそういうところがあると思います。

ポールは、LGBTQの「Q(クエスチョニング)」で、自分の性的なものをカミングアウトができずに、どうしたらいいか迷っているときに、ルディに出会ったことで、彼の心の旅が始まる。舞台ではそこをうまく表現できればと思っています。特にポールが変化して行き、感情を表に出していく裁判のシーンは、見ものですね。


少年マルコに関してはどうですか。

 

LOVE JUNX(※ダウン症のある方のためのエンターテインメント集団)の舞台は、素晴らしかったですし、オーディションでも、ダウン症がある子たちは、本当にストレートに感情をドンとぶつけていて、プロ顔負けの本気の演技でした。

この作品は、全員が安全地帯にいてはだめで、エッヂが立たないと演じられない。生半可なものでは、観客に「ばれてしまう」。少年マルコ役の2人は、そのことに気づかせてくれました。

僕もダウン症のある方と初めて稽古するので、過程でいろいろなことを感じるでしょうし、その感じたことをいい形で舞台の中で生かせればなと思っております。

 

いつも以上に熱い稽古場になりそうですね!


なりますね、きっと。
やはり原作の映画が凄すぎたからね。分かりやすい、ウェルメイドな作品ではないし、そもそもそこを目指していない。壮絶で、生の人間があぶり出していきたいです。

この作品を通じての亞門さん自身が訴えたいことや伝えたいメッセージはありますか?


このコロナ禍で、いろいろなことが浮き彫りになったと思います。人って何のために今生きてるんだろうとか、本当に人は愛しあえるのだろうかとか、考えたし、結局人と人は愛し合いたいし、認めあいたいんだと思う人たちも増えたと思います。
でも一方で、断絶も増えました。二極化とまでは言わなくても、あらゆる場面で国も政治も分断して、差別や偏見も出ている。だからこそ、僕は愛にあふれたものをちゃんと舞台として出すことで、今後も我々が忘れてはいけないこと、我々に必要なことを感じていただきたい。まさに、このコロナ禍に本作が上演されることに意義があると思います。

でも、この作品の軸は、あくまで人と人の、愛の話。同性、異性を超え、愛を求め合う人が結ばれる事を願っている作品です。今回は、エンターテインメントの色あいも含めながら、楽しく作品を見ていただき、真の愛情の姿を感じていただきたいと思います。

コロナ禍でエンターテインメントの力が試されるということですね。



パルコ_宮本亜門1_400今はミュージカル『生きる』(10月9日〜日生劇場)の演出をやらせてもらって感じるのが、コロナの“おかげ”で、キャストもスタッフも皆さんが、自分のやっている仕事について、初心に戻り、益々本気になってきていると感じます。

今まで本気でなかったという意味ではなく、どう生きるか、何を大事にしたいかという思いが作品の中に入ってくるんです。観客の皆さんもただ劇場に楽しみに来るだけではなくて、このコロナ禍にわざわざ劇場にいらっしゃるわけだから、「感じたい」という強い思いもあると思いますし。
観客のみなさんが楽しみながらも、その心の奥深くまで震えるように。いい意味で反応しあえる体感を大切にしたいですね。


最後に観劇を楽しみにしていらっしゃるお客様にメッセージをお願いします!


この時期だからこそ見てほしい舞台です。
コロナ禍に劇場へ行くことを敬遠する方もいらっしゃるかもしれませんが、僕たちは、生の劇場でしか出せないものを目指して、作品を作り上げます。コロナ禍で愛を体感していただきたいし、この名作の世界初演を味わっていただきたいと思います。