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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第14回「『美味しい』タカラヅカ」

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『美味しい』タカラヅカ

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、
よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第14回目は『『美味しい』タカラヅカ』です。開演前・幕間にぜひご一読ください。

 タカラヅカ観劇後に、作品にちなんだものを食べたくなることが、よくある。
 たとえば、イタリアを舞台にした作品であればピザやパスタ、ドイツならビールにソーセージ、オーストリアならザッハートルテ、スペイン物ならパエリア、ロシア物ならピロシキやボルシチ。日本物であれば、シンプルに炊き立てのご飯で作ったおにぎりが食べたくなることもある。
 中国物であれば、やはり餃子や肉まんだ。ただし、KAATや神奈川県民ホールでの公演の場合は、作品の舞台がどこの国であれ、中華街へ直行である。
 食べ物だけではない、お酒だってそうだ。やたらワインを飲みたくなる作品や、ビアガーデンでぱあっと騒ぎたくなる作品もある。禁酒法時代の作品であれば、終演後に飲むときもイケナイことをしている快感がある。

 世界の「乾杯」を学ぶことができるタカラヅカ
 世界の「乾杯」を学ぶことができるタカラヅカ

 もう何年も前の話、パリに旅した時のこと。ヅカオタとしてはまず有名なカフェ「フーケ」に直行し、カルヴァドスを注文した。だが、運ばれてきたストレートのカルヴァドスはアルコール度数が高すぎて、とても飲み切れなかった(調べてみると、40度以上あるらしい)。
そこで一つ分かったのは、『凱旋門』のラヴィックとジョアンは「めっぽうお酒に強い」らしいが、私にはせいぜいシードルで十分だということだった。
 「タカラヅカ×食」の連想ゲームを際限なく続けながら、ふと思った。これはいったいどこまで続くのか? 確かに私は食い意地が張っているが、そのせいではなさそうだ。なぜなら、他のジャンルの演劇を観たとき、こんな連想をすることはないからだ。
 タカラヅカは「美味しいもの」と分かち難く結びついた演劇なのではないだろうか? つまり、今回のタイトルの「美味しい」は、比喩などではない。文字通りの狭い意味である。
 タカラヅカは何故「美味しい」演劇なのだろう? 考えてみて、二つの理由が思い当たった。

 理由の一つ目は、タカラヅカが世界各地を舞台にした作品を上演しているからだ。作品がきっかけで、その土地の食文化に興味を持ち、あれこれ調べてみたり、その国の料理を出しているレストランに足を運んでみたり、時には自分で作ってみたくもなる。結果として、公演が終わるごとに料理のレパートリーが増えていたりする。

 理由の二つ目は、タカラヅカの小道具の精巧さのおかげではないかと思う。舞台上に出てくる食べ物が、やたら美味しそうに見えるのだ。しかも、登場人物がそれをやけに美味しそうに食べる。だから、終演後に本物が食べたくなってしまうのである。

料理だって、オペラグラスでじっくり観察したい
料理だって、オペラグラスでじっくり観察したい
 

 こうした小道具たちは、宝塚大劇場に併設されている「宝塚歌劇の殿堂」の展示で、最新の公演で使われたものを見ることができる。じっくり観察すればするほど、そのこだわった作りに驚かされる。

 観劇後に美味しいご飯を食べながら、友人と語り合うのは極上の楽しみだ。まして、料理が作品と繋がっていれば、言うことはない。ここ最近、そんな楽しみとは少し縁遠くなってしまっていたけれど、今年は少しずつ復活していけばいいなと願っている。

中本千晶(なかもと ちあき)

1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。

『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)
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2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第15回「日々是カンゲキ」のテーマは、「ハッピーエンドがお好き?」

タカラヅカだからこそ、悲劇にも果敢に挑戦できる理由とは?タカラヅカの「ハッピーエンド保険」とは!?
中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでタカラヅカの「ハッピーエンド」をお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第15回「日々是カンゲキ」は2023年2月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
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