Vpassチケット

■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第15回「ハッピーエンドがお好き?」

takarazuka_column_header2

15
ハッピーエンドがお好き?

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第15回目は「ハッピーエンドがお好き?」です。ぜひご一読ください。

 突然ですが、皆さんは悲しい結末とハッピーエンド、どちらがお好きですか?
 ある大学のゼミで質問をしてみたところ、ほぼ全員がハッピーエンドの方が好きだと答え、「悲しい結末」派は学生一人と担当の先生、そして私の3人だけだった。
「これはもしかして世代格差か?」という疑惑が浮上したので、同世代の友人たちにも聞いてみたのだが、やはりハッピーエンド派が多数を占めていた。
 どうやら世代を超えて、今はハッピーエンドが好まれる傾向が強いらしい。コロナ禍、戦争、物価高…それでなくとも心が沈みがちなことが多いご時世、せめて舞台の上では幸せな気分になりたいということかもしれない。

 かくいう私も先日、ヅカオタ友だちの勧める中国ドラマを最終回まで見終わったのだが、その悲しすぎる結末からなかなか立ち直れず、大変困っている。1週間近く経つというのに、主要な登場人物たちの壮絶な最期が未だ脳裏から離れない。あの人たち、きっと幸せになると信じていたのに…。切り替えの速さを自認していたはずが、これは如何に? さすがの私もメンタルが弱ってしまっているのだろうか?

 しかし、それでもここでは敢えて「悲しい結末」を推してみたいと思う。
 主人公たちと共に自分まで幸せな気分に浸れるのが、ハッピーエンドの良さである。だが、しみじみとした余韻が意外と長く残るのは、悲しい結末の作品の方ではないだろうか。
 主人公たちの辛く悲しい試練を無理やり(?)追体験させられることで、観る側の心にも深い想いが刻まれる。それは、淋しさだったり虚しさだったり、時にはどうにも納得のいかないモヤモヤだったりする。いずれも冷徹で残酷な、人生の現実を突き付けるものだ。しかし、そんな刻印はいつまでも心に残り、長い目でみると人生を香り高いものにしてくれる気がする。

宝塚花組_あなたはどのタイプ?悲劇を観た後の反応三態①
あなたはどのタイプ?悲劇を観た後の反応三態

 悲劇を観た時の「涙の浄化作用」も侮れない。泣いて泣いて、止まらない鼻水に困るほど泣いた後というのは、逆にスッキリして、前より元気になっていたりするものだ。
 そもそも結末の如何にかかわらず、良い舞台というものは観る人に元気をくれるものではないだろうか。どうにもやるせない結末に、いったんはどん底まで突き落とされたかのような気分を味わった後に、腹の底からエネルギーが湧いてくるような不思議な感覚を何度も味わったことがある。

 それに…何といってもタカラヅカにはショー・レビューという「ハッピーエンド保険」がかかっている。前半のお芝居がどれほど悲しい結末を迎えても、幕間をはさんだ後半には夢いっぱいキラキラのショーが待っており、観客は必ず最後に幸せな気分になれるのだ。

宝塚花組_タカラヅカ「ハッピーエンド保険」の適用事例②
タカラヅカ「ハッピーエンド保険」の適用事例

 そう考えると、ハッピーエンド保険のかかっているタカラヅカだからこそ、悲劇にも果敢に挑戦できるのではないか、とも思う。

 悲劇? 喜劇?…とにかく、劇。どちらが欠けてもつまらない。バッドエンドは少々疲れるけれど、ハッピーエンドばかりでも物足りない気がする。どちらもあるから演劇は豊かなのだ。
 だが、心が弱っているときは悲しい結末とじっくり向き合うのが難しいのもわかる。今年は、悲劇を楽しむ余裕が持てる年になればいいなと願っている。

中本千晶(なかもと ちあき)

1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。

『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)
タカラヅカの解剖図鑑
詳説世界史
2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
購入はこちら

イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)
いつも心にタカラヅカ!!
読んで楽しむ宝塚歌劇演目ガイド123選
2021年8月発売
牧彩子 著
宝塚歌劇の人気演目から知られざる名作まで、あらすじ・見どころ・ツボを楽しく解説します!
詳細はこちら
次回予告

第16回「日々是カンゲキ」のテーマは、「「ムラ」の中の人、外の人」

「ムラ」の外の住人にとって、「ムラ」こと宝塚市は街全体が「夢の世界」であり、宝塚大劇場はその奥御殿。中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストで「ムラ」の中の人、外の人の熱い想いをお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第16回「日々是カンゲキ」は2023年3月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!