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■ミュージカル『ミス・サイゴン』製作発表レポート

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INTRODUCTIONはじめに

2022年、今、奏でる――
命をかけて貫いた愛

『ミス・サイゴン』は、『レ・ミゼラブル』のクリエイティブ・チームが手がける第2弾として製作され、日本では1992年から1年半の帝劇ロングラン以来、通算上演回数1463回を重ねる大ヒット作です。
舞台は、ベトナム戦争末期のサイゴン。エンジニアの経営するキャバレーで知り合った、ベトナム人の少女キムと米兵クリスの二人の愛、別離、運命的な再会。そして、キムの子タムへの究極の愛・・・『ミス・サイゴン』はすべてを歌で表現します。
装置のスケールも規格外で、キムとクリスの別離は、実物大のヘリコプターが登場する象徴的なシーンとしてあまりにも有名です。
音楽、スケール、魂を揺さぶる感動、どれをとっても「伝説」として語り継がれる作品は、『ミス・サイゴン』をおいて他にありません。
戦争の悲劇が私達とそう遠くない世界で繰り広げられる今、少女キムの思いを帝劇の空間いっぱいに心を込めてお届けします。

今回は都内で2022年2月上旬に行われたミュージカル『ミス・サイゴン』の製作発表の様子をお届けします。今作は新型コロナウイルス感染症防止の影響で中止となった2020年公演のメンバーがほぼ再集結。今回の会見にはエンジニア役の市村正親さん、駒田一さん、伊礼彼方さん、東山義久さん、キム役の高畑充希さん、昆夏美さん、屋比久知奈さんがご登壇され、リスタートとなった今作への想いや意気込みを語ってくださいました。

STORYストーリー

1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーで、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。

REPORT製作発表レポート

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最初に一言ずつお願いします。

市村正親 2年前にやる予定だったのが中止となりましたが、28周年より30周年の方が語呂がいいような気がしています。何事も前向きに良いように捉えたいと思うので、30周年の年に上演できることを幸せであると同時に、30年やってきたエンジニアですが、これで最後とは言いません。足腰が立つ限り演じ続けていきたいと思います。年ですがかなり元気な73歳です。

駒田一 大先輩の市村さんの背中をずっと追ってきて、40年前からずっとみてきました。30年前、市村さんのエンジニアを観て、そのときから「いつかはこの役を演じてみたい」と思っていました。オーディションに落ち続けて3度目の正直でやっと受かり、はじめてエンジニアを演じた2014年の初演は記憶がないくらい無我夢中で、2回目はなんとなく地に足をつけ、2020年の3回目は作品全体を見ながらもっとチャレンジしよう、というところで中止になってしまいました。今回は3回目なのか4回目なのかよくわかりませんが、またこのメンバーで30周年を創り上げていかなければと思っております。背筋がピシッと伸びております。最後まで完走したいと思います。

伊礼彼方 初演ですが製作発表は2度目で再演の気分で、でもまだやっていないという不思議な感覚です。今日は30年前の初演のCD、市村さんの歌声を聴きながら会場入りしましたが、歴史を感じて身に沁みました。2020年の時にも隣に市村さんがいるのを見て感動していました。それから(再上演が決まる)2年の間にいろいろな経験をさせていただいたからなのか、さらに市村さんの厚み、包容力を感じて、ちょっとウルウルしてしまいました。前回は稽古場でお会いできないまま中止になってしまったので大先輩の背中を追わせていただければと思います。

東山義久 2019年にオーディションに受かり、2020年3月に稽古が始まる、夢のようなスタートを切りました。それが道半ばで、まさに夢のように終わってしまい、心にぽっかりと穴が空いてしまいました。観客の皆様も同じように悲しい想いをされたと思います。今回、こうして皆様と一緒にできること、それも日本での上演30周年という佳節の公演に参加できることに心から感謝しています。千穐楽まで、市村さんを筆頭にキャスト・スタッフの皆様と一丸となって走っていきたいと思います。

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市村正親さん
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駒田一さん
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伊礼彼方さん
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東山義久さん

高畑充希 2年前は歌稽古が終わり、途中まで立ち稽古も進んだところでの解散でした。公演が中止になった悲しみはもちろん、稽古が楽しく始まった矢先にバラバラになってしまった悲しさが強くて、みんなと顔を合わせて歌を歌えることが嬉しくて、もっとこの稽古場にいたいなと思っていました。またあの稽古の日々が始まると思うとすごく楽しみです。2年延びて、30周年になったことですし、パワフルな公演になるように頑張りますので、楽しみにしていてください。

昆夏美 この作品のファンで、帝国劇場の客席で市村さんのエンジニアをずっと見てきた私が、2014年にはじめてキムとして参加できたときは感無量でした。30周年の公演に出演できることを嬉しく思っています。前回は、キム役のみんなでお互いの良いところや、この方はこういうキムになるんだろうなというカラーが見え始めたところで中止になってしまいました。2020年の稽古を思い出しながら、より深めながら、各々のキムを作って楽しんでいただける作品にしていきたいと思います。

屋比久知奈 2年前に中止になった時は、悔しさ、悲しさ、もどかしさ…いろいろな感情が渦巻いていました。2年後の30周年の節目に、またキムを演じるチャンスをいただけたことを嬉しく思っています。キムに対して想像していたあの時の想いをしっかりと消化できるように、役と真摯に向き合っていきたいです。この素敵な皆様と一緒に作り上げていく過程が今から楽しみです。今度こそ全公演上演できることを願いながら、精一杯務めたいと思います。

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高畑充希さん
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昆夏美さん
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屋比久知奈さん

”ミスター・サイゴン“である市村さん、初演から携わってきた30年の歴史の中で、忘れられない印象深かったことなど3つほどお教えいただけますか。

市村正親 まず思い出すのは、(舞台機構などの制約で)『サイゴン』は帝国劇場でしか上演できなかったこともあり、初演後しばらく公演がありませんでした。いつ再演するんだろうと思っていたらついに(2004年に)博多座と帝国劇場でやると決まったときは心臓が口から飛び出るくらい嬉しかったですね。
次は、2012年の新演出版初演。広島でヘリの音が鳴ったときは鳥肌が立ちました。四季時代からいろんな作品で広島には訪れていましたが、限られた劇場でしか上演できなかった『サイゴン』が、広島であのヘリの音が鳴った時は新演出になってよかったと思いました。
3つ目は、初演の頃は44歳でWキャストだったんですけど、あるとき間に合わなくて僕が1人で6公演とかやることになったんです。週1回のマッサージで、週10公演やれていたんです。それが、再演からは週に3回はマッサージに行かないと持たないんですよ。驚きですよね(笑)。

(駒田さんと、昆さんへ)再演を重ね、何度も演じられてきていますが、お二人が思う作品の魅力は何でしょうか。

駒田一 なんといっても楽曲の素晴らしさだと思うんです。歌唱収録の際に3人が歌うキムのナンバー「命をあげよう」を聴きましたが、なんていい曲なのだろうと涙が出てきました。我々が歌う「アメリカン・ドリーム」も泣くような曲ではないのですが、なぜかグッとくるんです。他の現場にいても聴きたくなるような楽曲の素晴らしさがありますよね。
ヘリの音も、普段の生活の中で聞くことありますけどドキッとすることがあるんです。それだけインパクトが強くて、どれをとっても画になる素晴らしい作品だと思います。

昆夏美 ファンとしてはじめて観たときの印象が衝撃的でした。物語、登場人物の境遇、それを演じる俳優の気迫、音楽の素晴らしさに圧倒されて、1幕が終わっても立ち上がれないくらい喰らってしまいました。舞台の、作品の熱とパワーがお客様を包み込むような影響力のある作品だと思います。舞台に立つ側になっても、この作品の持つエネルギーや物語をしっかりとお届けしたいと思います。

(新キャストの皆様へ)それぞれの役であるエンジニア・キムの魅力と、どんな想いを込めて演じていきたいかお聞かせください。

伊礼彼方 エンジニアの人間臭いところがとても好きですね。2つのルーツを持つ彼のアイデンティティは、僕も同じものを持っているので、今いる立場に足がついていない状態が理解できるんです。彼のいやらしさや欲深さが表に出ているイメージがあると思いますが、居場所を探してもがいている心情が感じ取れて、僕には寂しいひとりぼっちの男の子に感じているんです。そこを掘り下げていきたいし、それが魅力的で素敵な役だと思いますね。
前回(2020年の時)は30代でエンジニアをやれると興奮していましたけど、40歳になって迎える30周年の『ミス・サイゴン』に出演するというのは、きっと神様が試練を与えてくださったのかなと前向きにとらえております。前回は感じ取れていなかった細かいところを、言葉・音楽を突き詰めて、役者とのコミュニケーションもしっかりとって、作り上げたいと思います。

東山義久 やはり魅力的なのは人間臭いところですよね。「夢が叶えばいいな」ではなくて「夢をつかみ取る、もぎ取る」というエネルギーがエンジニアの最大の魅力なのかなと思います。その人間力に惹かれますし、そこを探求して、お三方とは違うエンジニアを見つけたいと思います。
この2年の間にいろいろ経験させていただいて、コロナ禍でエンターテイメントに対していろいろと考えさせていただいて、前とは全然違う気持ちで立てているのかなと。エンターテイメントは必要なものだという誇りを胸に、新しく生まれ変わった僕で2022年のエンジニアを演じていきたい。今度こそ、アメリカン・ドリームを叶えたいと思います。

高畑充希 前回の稽古の時は毎日考え方が変わって、周りの方からいろいろな影響を受ける日々だったので、こうなると思うって言える自信がないんですけど。歴史的な背景を学んだことで、キムというキャラクターではあるんだけど、ある女の子の話だと思いました。同じような状況はあの時代にはたくさんあって、その子があの状況におかれた時にどんな選択していくのかっていう話なんだなって。だからキムが3人いることは素晴らしいことだと思うし、それぞれがやることで全然違うキムになると思います。2人を見ているだけでインスピレーションをもらえて、刺激をもらえて、嬉しくなって、楽しくなったことが前回の稽古場でたくさん起こったんです。今回も自分なりのキムを探していく稽古期間になると思うんですけど、なんとなくキムは盲目的で、熱くてたぎっているけど、青い炎みたいなイメージで、静かな湖の中にボコボコ燃えるマグマを隠しているような人なのかなって思っています。今回の稽古場でもいろんな人と話すことでどんなキムになるのか自分自身も楽しみです。みんなと一緒に力を合わせて、最後まで走り切れたら最高だなと思います。

屋比久知奈 前回、稽古を重ねたり歴史的背景を勉強したりするうちに、キムという女性のいろいろな層が見えてきて、1人の人生を生きるということを改めて深く強く考えなければいけない役だなと感じたのを覚えています。純愛の物語とも聞きますけど、あの時代を生きた1人の女性の生き様、どんな状況で何を選択しなければならなかったのかというところまでを、深く彼女を理解して、愛して、強さも弱さも、汚いところも美しいところも全部表現できるように精一杯向き合いたいと思っています。
2年経った今、私自身が経験してきたことが、きっと意識しなくても2年前とは違うキムの見方、歌い方、演じ方に変わってくると思うので、あまり真っ直ぐになりすぎず、力みすぎず、純粋な気持ちで、今の私で自分なりのキムを演じたいと思います。

市村さん、今後の目標と30年続けられる秘訣を教えてください。

市村正親 (2012年公演から演出が変わり)傾斜の舞台からフラットになったので、半永久的にやれるんじゃないかと思っています。車椅子に乗りながらでも、しがみついてやるという、これこそがエンジニアの精神なので、たとえどんな状況でもこの役を離すものか!というのが今後の目標です。
30年続けられているのは日頃の努力ですね。お芝居の神様がこのエンジニアという役は市村にやらせてあげたいと思っているのかなと。それとお客様がこのエンジニアを初演の頃から愛してくださっていることを十分感じます。どう演じようかと考える時に、孤独にひたむきにあの時代の中を生き抜く男を、今のこの年齢でやってみたいなと、30年前とは違うものが生まれるんじゃないかと思っています。今から楽しみです。

エンジニアを演じるお三方にとって、市村さんはどんな方ですか?

駒田一 僕は40年前から”目指せ市村正親“という目標がありましたから。今回で3回目ですけど、なんとか残らせていただいているような、しがみついているような気分です。この作品だけじゃなくミュージカル界で生き延びていかなきゃいけないというエネルギーを誰しも持っていると思うんです。ただどんなに市村さんのマネをしても市村さんにはなれなくて、駒田のエンジニアを作らなければいけないということを教えていただいています。市村さんは先輩であり、師匠であり、仲間だと思っています。

伊礼彼方 歴史ですよ。先ほど「車椅子に乗ってでも演じる」っておっしゃっていましたけど、もしそうなったときはその車椅子を押させていただきたいくらい(笑)。それだけこの作品に込めている愛情は計り知れませんけど、僕ら(伊礼彼方・東山義久)若い世代もいることを忘れないでください。僕らは市村さんが初演を演じられた40代で、まだギラギラしています。貪欲です。足も上がります。市村さんに負けないように努力したい。初演からずっと演じられている方とご一緒できることはなかなか経験できないと思うので、大先輩の背中を追わせていただいて、良いもの全部盗ませていただいて、自分のオリジナルのエンジニアを作らせていただきたいと思います。

東山義久 ミュージカルやエンジニア役に限らず、舞台役者として神だと思っています。市村さんの舞台で初めて拝見したのは「ニジンスキー」で、その約10年後に僕もやらせていただきました。市村さんのあの狂気をはらんだニジンスキーに強烈な印象を受けました。市村さんは常に僕らの一歩も二歩も先を行く素敵な表現者です。前回の稽古でもエンジニアを演じていないので、たいしたことないと言われないように務めていきたいと思います。

女性陣の皆様へ、市村さんと同じ舞台に立つことについて一言ずついただけますでしょうか。

高畑充希 率直に嬉しいです。以前『スウィーニー・トッド』でご一緒させていただいてから親しくさせていただいています。この作品はずっと憧れていたんですけど、まだ出来るはずないと思いながら過ごしてきた中で出演が決まって、そこでまた市村さんがエンジニアをやられることを聞いて、また同じ舞台に立てる嬉しさがありました。大先輩でとても尊敬しているのと同時に、一緒に立てる安心感と嬉しさがあります。

昆夏美 2014年の『ミス・サイゴン』が初共演でした。キムがタムの名前を呼ぶシーンがあるんですけど、その呼び方にいろんな表現があるとアドバイスをいただいたことをよく覚えています。そこには母親の決意や愛情が込められているから、いろんな呼び方があるよって話していただきました。あれから8年経って自分なりの表現をまた市村さんにお見せしたいと思っています。

屋比久知奈 昨年『屋根の上のヴァイオリン弾き』で共演させていただいて、その時はパパでした。あのときの頼っていたパパとしての存在感、エネルギー、たたずまいを、今度はエンジニアとキムとして舞台上で感じられることがとても光栄で楽しみです。『ミス・サイゴン』30年の歴史のすべてを知る市村さんから、たくさんのことを学びたいと思います。

高畑さんへ、前回公演が中止となったとき、再び挑戦できることが決まったときの率直な心境を教えていただけますか。

高畑充希 前回とても楽しみだったんですけど、来てくださっていた海外スタッフはいつまでいられるのかとか、ヒヤヒヤしている状況の中、みんなで助け合いながら稽古をしていました。でも、このまま幕が開いても準備もままならないような状態だったので不安もありました。中止になった時はすごく悲しかったんですけど、なんとなく「今じゃなかったのかな」と思って意外と落ち着いていました。しばらくして、また再演できると聞いたときに「このタイミングを待っていたのかも」って思って。そこまでに少しでも成長できたらと思って、他の仕事をしながら、たまにCDを聴いたり、稽古場でみんなで録った音源を聴いたりしていました。すごくポジティブな気持ちで、またこのカンパニーでやれて楽しみという気持ちが強いです。

最後に市村さんからひと言お願いします。

市村正親 『ミス・サイゴン』は本当にいい作品です。エンターテイメントでありながらも「命」や「生きること」を伝えている。絶対に起こしてはいけない戦争というものを、その戦争が生み出す悲劇を目の当たりに見せることによって、少しでも世界にそういうムードがなくなったら良いかなと思っています。少しの力になれたらいいかなと思っています。コロナ禍ですが、劇場も対策して、最高の舞台を見せたいと思います。

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