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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第18回「すべての道は大劇場に通ず」

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すべての道は大劇場に通ず

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第18回目は「すべての道は大劇場に通ず」です。ぜひご一読ください。

 タカラヅカの公演といえば、普通はホームタウン宝塚大劇場、そして日比谷の東京宝塚劇場での公演をイメージするだろう。ここで5組が交代で公演を行なっている。この2つの劇場は客席数2000を超え、大階段や銀橋など独自の舞台機構を備えており、いかにも「タカラヅカらしい」華やかな舞台を堪能することができる(以下、これを大劇場公演と呼ぶ)。このコラムが掲載されているチラシも、主には大劇場公演で配布されている。
 だが、実はタカラヅカが上演しているのは、大劇場公演だけではない。ぐっと小規模な劇場での公演や、宝塚・東京以外の全国各地での公演もあるのだ。しかも、それらの公演の成果が結果的に大劇場公演に結びついていくところが、タカラヅカのすごいところである。

「成長の見守り方」もいろいろある
「成長の見守り方」もいろいろある

 「宝塚バウホール」は、宝塚大劇場に併設された、客席数500の小劇場だ。ここでは主に、新進の若手スターが主演する公演が行われ、演出家もまた、この劇場でデビューを飾ることが多い。大劇場公演ではできないような、実験的な試みも行われる。
 「バウ」とは船の舳先の意味だそうだが、その命名の通り、タカラヅカの未来を切り開くという役割を担う劇場である。したがって客席も、若手スターの奮闘を見守ろうという温かな雰囲気に満ちている。気鋭の演出家による斬新な作品を、いち早くこの目で見届けようというツウな観客も多い。
 バウホール主演の経験を経たスターはしばしば、その次の大劇場公演で見違えるように成長した姿を見せる。そして、バウホール公演で成功を収めた演出家は、いよいよ大劇場公演を担当することとなる。つまり宝塚バウホールは、スターあるいは演出家の育成のために必要不可欠な劇場なのだ。

 いっぽう「全国ツアー」は、宝塚大劇場、東京宝塚劇場以外の全国各地で行われる巡業公演だ。上演作品は初めてタカラヅカを観る人にも楽しんでもらえるよう、長年親しまれてきた名作のお芝居とショーの2本立てが選ばれることが多い。
 この全国ツアーが、数年あるいは10数年に1度しかやってこない地域に来るともなれば、それは大変な騒ぎとなる。
 「テレビでタカラヅカのコマーシャルやっちょったけぇ、一生に一度のことと思うて、娘も連れて観に来たよぉ」という地元の民と、首都圏や関西から観光を兼ねて遠征してきたヅカオタが入り混じり、劇場ロビーはカオスの様相を成す。2種類の民が発する、質は異なるがアツさは同等の熱で客席は異様な盛り上がりを見せる。さらに地元出身スターが登場しようものなら、そのテンションはMAXに達する。

全国ツアー幕間、未来のスター爆誕の瞬間!
全国ツアー幕間、未来のスター爆誕の瞬間!

 この時「一生に一度のことと思うて」連れてこられた「娘」が沼にハマってしまうことは、少なからずある。そして「次は宝塚大劇場、あるいは東京宝塚劇場へ」ということにでもなれば、5段ぐらいしかなかった階段がいきなり26段の大階段となり、人数も倍以上に増えた舞台に間違いなく圧倒されるだろう。
 その意味で「全国ツアー」もまた、未来のヅカオタ、場合によっては未来の大スターを生み出す機会として、とても重要な役割を果たしている。

 つまり「すべての道は大劇場に通ず」なのである。このシステムもまた、タカラヅカが100年を超える長きにわたって歩みを続けてこられた秘訣なのではないかと思う。

中本千晶(なかもと ちあき)

山口県周南市出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
2023年、早稲田大学大学院文学研究科にて博士(演劇学)学位を取得したタカラヅカ博士。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
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2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。
宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。
『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第19回「日々是カンゲキ」のテーマは、「タカラヅカ、5組そろってみんないい!」

このコラムを読んでくれている、「○担」な皆様。推しの組だけ観ていませんか?
「○担」だからこそ、5組全部を観てみようよ!その方が絶対楽しいから!次回も引き続き中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第19回「日々是カンゲキ」は2023年6月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!