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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第17回「どの席から観ても」

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どの席から観ても

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、
よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第17回目は『どの席から観ても』です。ぜひご一読ください。

 「どの席で観るのが一番オススメですか?」と、よく聞かれる。だが、これが答えに迷ってしまう。というのも、その人にとってのベストな席は時と場合によって違うからだ。
 一般的には、1階席8~10列目ぐらいのセンターブロックの席がおすすめと言われるだろう。ところが、ことタカラヅカの場合、2階席からは1階席とは全然違った景色が見える。たとえば、廻り舞台を使った場面の迫力や群舞の美しいフォーメーションなどは、むしろ2階席からの方が堪能できる。したがって、同じ作品を何回か観劇する予定があるときは、1階席と2階席の両方で観るのがおすすめだ。

2階席を200%楽しむためのおすすめポイント
牧彩子さん伝授「2階席を200%楽しむためのおすすめポイント」

 また、下級生を応援している人にとっては2階席の方がベターということもある。下級生はたいてい舞台の後ろの方にいるので、1階席だと逆に見えなかったりする。
 舞台の奥の方で懸命に踊っている「推し」下級生に「大丈夫!私だけは貴方を見ているから!」などと心で語りかけながらオペラグラスを向けるときの密やかな喜びは大切にしなければならない。何故なら「光陰矢の如し」で、その下級生もあっという間に前の方で踊るようになってしまうからだ。

 端の方の席がありがたい場合もある。まず、「幕間お手洗いバトル」に必ず勝てるという安心感は捨てがたい。中には、体調の都合でいざという時にすぐに外に出られるから端の席でなければ、という人もいるだろう。
 それに、「舞台袖に走り去るスターの表情」や「センターにいるスターの横顔」など、端の席からしか見えない景色もある。その昔、花道すぐそばの席に座った時、パレードで目の前に立っていた男役さんがにっこり微笑みかけてくれた気がして、私は心を射抜かれてしまった。後に、その男役さんは立派なトップスターになったので、その笑顔は私にとってますます忘れ難いものとなった。

夢の最前列センターに座ってしまった! その反応は十人十色
夢の最前列センターに座ってしまった! その反応は十人十色
 

 一般の演劇の場合、前過ぎる席は全体が見えないし、首が痛くなるので敬遠されがちだ。ところが、タカラヅカでは1ミリでも前の席が喜ばれる。かつて「宝塚友の会」で最前列の席が当たってしまった時のことは強烈な思い出だ。とにかく、舞台から伝わってくるエネルギーというか、圧がすごくて、観終わった時は全身が脱力していた。あのパワーを受け止めるためには、こちらにもそれなりのパワーがいる。したがって、最前列に座る日は数カ月前から体調を整え、万全のコンディションで望んだほうがいい。
 逆に、リーズナブルな値段の後方席は、タカラヅカの未来のためにとても大事な場所だ。こういう席なら学生でも気軽に足を運んでみようと思える。つまり、明日のファンを育てる席でもある。

 要するに、1階席でも2階席でも、センターでも端でも、前でも後ろでも、それぞれ違った価値があり、見どころがあるということだ。幸い、宝塚大劇場と東京宝塚劇場は、どの席も快適に観られる作りになっているからありがたい。
 そして、私の経験則上、ずっと忘れられない作品や、心ときめくスターとの出会いは、案外、後ろの方や端の席で観劇した時に訪れることが多いように思う。つまり、劇場の隅々まであまねく魅力を伝えることができるのが、名作であり偉大なスターなのだろう。

中本千晶(なかもと ちあき)

山口県周南市出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
2023年、早稲田大学大学院文学研究科にて博士(演劇学)学位を取得したタカラヅカ博士。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
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2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。
宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。
『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第18回「日々是カンゲキ」のテーマは、「すべての道は大劇場に通ず」

タカラヅカの公演といえば“宝塚大劇場”と“東京宝塚劇場”ですが、小劇場や全国各地でも思考を凝らしながら色々と行なっています。
タカラヅカが歩み続けてこられた重要な役割を果たす他劇場の公演の意義を、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第18回「日々是カンゲキ」は2023年5月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご覧ください!