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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第16回「「ムラ」の中の人、外の人」

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「ムラ」の中の人、外の人

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第16回目は「「ムラ」の中の人、外の人」です。ぜひご一読ください。

 宝塚大劇場での観劇、いわゆる「ムラ遠征」から戻ってきたときに、必ず感じる不思議な感覚がある。それは、はるか彼方の遠い国から戻ってきたような感覚だ。一気に日常に引き戻された淋しさ、切なさ、やるせなさ…と同時に「さあ今日から再び私の生活をしっかり営んでいこう」という、地に足をつけた実感も、ふつふつと湧き上がってくる。

 これは考えてみれば当然のことである。だって私は「夢の世界」に行ってきたのだもの。実際にはいつも通り劇場に行って、おなじみの店で慌ただしく食事をし、リーズナブルな宿に泊まり、全国旅行支援クーポンを使う暇もないほどに慌ただしい旅程をこなしてきたのだが、それでも不満はない。何しろ「夢の世界」では、中国でもヨーロッパの東の果ての国でも、夢と現の間でさえも自在に行き来できるのだから。

月組_「夢の国」の住人の、ぜいたくな悩みとは?
「夢の国」の住人の、ぜいたくな悩みとは?

 かくの如く「ムラ」の外の住人にとって、「ムラ」こと宝塚市は街全体が「夢の世界」であり、宝塚大劇場はその奥御殿である。ほぼ同じ作りをしているはずの東京宝塚劇場とはやっぱり違う。
 駅を降り立って「花のみち」を歩いて劇場に向かう。次第に高まるワクワク感がたまらない。そして、建物に入ってからも、両側に土産物屋やレストランなどが並ぶ通路を歩いて、ようやく劇場の入り口である。なかなかゴールにたどり着けない、あの感じが良いのである。山口県に育った私のタカラヅカデビューは宝塚大劇場だったから、今でも思い入れがある。

 劇場に入って左手の上部に飾ってある、公演中の組のスターの顔写真プレートも宝塚大劇場にしかない名物だ。ご贔屓スターが初めてあの顔写真プレートになった時の嬉しさはたまらない。ちなみに、1993年に建て替えられる前の旧大劇場では、この顔写真プレートが劇場の建物に入ってから改札までの通路の右側の上部にずらっと並んでいた。これを横目に見ながら歩くと、「うわー、大劇場まで来たんだあ」という気分が否が応でも盛り上がったのも懐かしい思い出だ。

 劇場本体も、広々としている。東京宝塚劇場2079席に対して宝塚大劇場は2550席だから当然なのだが、来るたびにその威風堂々とした感じに圧倒される。とりわけそれを感じるのは、正面の赤い階段だ。私はこの階段を登ってから客席に向かい、劇場を出るときもこの階段を降りるのが好きである。だが、宝塚大劇場の広々とした階段を登ったときは、嬉しさを通り越して何やら緊張感さえ感じてしまう。

 こんな幸せな、東京勢から見ると夢のような環境の中で日常生活を営んでいるムラ勢の皆さまは、いったいどんな気持ちで毎日をお過ごしなのだろう? このコラムのイラストを描いてくれている牧彩子さんはムラの住人だから、「牧さん、どうなの?」という質問とともに、今回のイラストをお願いしようと思う。

月組_オフィス街の中の「夢の国」も悪くない!
オフィス街の中の「夢の国」も悪くない!

 こうしてみると東京勢にはいいことなしのようだが、決してそんなことはない。東京宝塚劇場の、オフイス街の中にいきなり夢の世界の扉が開ける感じも、また良いのだ。それに、なんといっても大劇場公演の後に必ず東京公演が控えているのがありがたい。「私にはまだ東京がある!」と言い聞かせることで、淋しさを打ち消しながら生きていけるのだ。

中本千晶(なかもと ちあき)

山口県周南市出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
2023年、早稲田大学大学院文学研究科にて博士(演劇学)学位を取得したタカラヅカ博士。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
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文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。
宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。
『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第17回「日々是カンゲキ」のテーマは、「どの席から観ても」

「どの席から観るのが一番オススメですか?」というタカラヅカでよく聞かれる質問に、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでわかりやすくお答えいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第17回「日々是カンゲキ」は2023年4月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!