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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第13回「タカラジェンヌのイケオジ力」

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タカラジェンヌのイケオジ力

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第13回目は「タカラジェンヌのイケオジ力」です。ぜひご一読ください。

今から45年ほど前、『風と共に去りぬ』が初演されたとき、トップスターが演じるレット・バトラーが「髭をつけるかどうか」が大問題になった。結局、つけることになったのだが、東京公演ではなお反対の声があり、新聞に「髭は箱根を越えるか」なんていう見出しが踊ったりした。
 そんな話を聞いたら、今どきのファンの皆さまは「はぁ?」と首を傾げるかもしれない。しかし当時は、うら若き乙女が「髭をつける」なんて、とんでもないことだったのだ。「お嫁に行けなくなるから、髭をつける役はさせないで」と懇願する男役もいたという。

 ところが、時代はすっかり変わり、今や髭は男役の必須アイテムの一つである。「髭をつけること」は男役の通過儀礼となり、若手の男役さんが「今回、初髭なんです」と嬉々として語っていたりする。
 考えてみれば、日本の男性に髭を生やした人はそんなに多くはない。つまり、今の日本で髭が最も似合うのは、女性である「タカラヅカの男役」だという不思議な現象が起こっている。

皆さまはどの髭男子がお好みですか?
皆さまはどの髭男子がお好みですか?

ファンの側もまんざらではなく、髭男子がたくさん登場する作品を「髭祭り」と称して喜び、ご贔屓スターが髭をつけた時は、むしろ速攻でスチールを購入し、ニヤニヤ眺めていたりする。
 だが、『風と共に去りぬ』の頃のあの決断がなければ、「髭祭り」を楽しむこともできなかったかもしれない。そういえば、かつて女性のショートカットでさえとんでもないと言われていた1930年代に、タカラヅカの男役たちはバッサリと髪を切ってみせたのだった。勇気とは何か?それは、変化を恐れず決断することなのだ。

 かつてタカラヅカの男役は、二枚目を演じる人と、髭をつけるおじさまを演じる人が、分かれていたように思う。ところが、髭が男役の通過儀礼となってからは、甘い二枚目から渋いおじさままで、幅広く演じられる男役が増えた気がする。つまり、男役の守備範囲が圧倒的に拡大したのだ。
 むろん、おじさま役を演じさせたら右に出るものはいないという人もいる。しかも、そんな男役さんほど、素顔は可愛らしい雰囲気の女性だったりするから、いわゆる「ギャップ萌え」してしまう。

 そして、男役が演じる「おじさま」のクオリティはどんどん上がり、バリエーションも増えている。男役が演じる男性が「理想の王子様」であるのと同様、男役が演じるおじさまも「理想のイケオジ」である。そこには、おじさまの魅力のエッセンスが凝縮している。
 私たちは、ジェントルおじさまに胸をときめかせたり、慈愛あふれるおじさまに癒されたり、ダメおじに笑ったり、時には、ワルいおじさまだとわかっていてもたぶらかされてしまう自分を妄想したりする。今や、多様なイケオジは、タカラヅカの舞台を彩る、なくてはならない存在だ。

「善い人?悪い人?」「硬派?軟派?」の2つの軸でイケオジを分類してみました。
「善い人?悪い人?」「硬派?軟派?」の2つの軸でイケオジを分類してみました。

ところで「イケオジ」という言葉はあるのに、なぜ「イケオバ」という言葉は聞かないのだろう?どうせならタカラヅカの舞台に「イケオバ」と呼びたくなるような女性も、もっと登場して欲しい。これからは「イケオバ」の時代が来るのではないか?
 …と、今やトップ娘役が演じるヒロインに自分を重ねることがなかなか厳しい年頃になった私は、希望的予測をしておきたいと思う。

中本千晶(なかもと ちあき)

1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。

『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)
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2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第14回「日々是カンゲキ」のテーマは、「「美味しい」タカラヅカ」

宝塚観劇後に、作品にちなんだ物を食べたくなることはありませんか?観劇後の乾杯は、格別!!
美味しい小道具たちで、世界各地を巡る気分になれるのが宝塚。次回も引き続き中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第14回「日々是カンゲキ」は2023年1月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
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