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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第7回「日本物への愛を語る」

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日本物への
を語る

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第7回目は「日本物への愛を語る」です。ぜひご一読ください。

タカラヅカの上演作品には「日本物」と呼ばれるジャンルがある。じつは私、これが大好きで、その素晴らしさを世に知らしめる草の根運動をこっそり続けてきたつもりである。
何故これほどまでに日本物を偏愛してしまうのか? おそらくそれは、私の初タカラヅカ体験のせいである。小学5年生のとき、伯母に連れられて宝塚大劇場で初めて観たのが、日本物の名作『あかねさす紫の花』であった。幕開きの場面で、大海人皇子と中大兄皇子、額田女王をはじめ、万葉時代の衣装に身を包んだ男女が蒲生野の狩場に集う。その晴れがましさに衝撃を受けてしまったのだ。
つまり、私にとってのタカラヅカの原風景は、軍服の男役や輪っかのドレスの娘役ではなく、黒燕尾の男役による一糸乱れぬ群舞でもなく、あの蒲生野の狩場なのである。タカラヅカファンとしては異端だという自覚はあるが仕方がない。だから今回は、そんな私の日本物への愛を盛大に語らせていただきたいと思う。

日本物ならではの見どころといえば、着物の着こなしや所作の美しさだろう。西洋文化の流入で和装から洋装に変わってしまった日本では、もはや着物は身近な服ではない。つまり、日本物といってもコスチュームプレイである点は、輪っかのドレスや軍服が登場する洋物と変わりない。

せっかくだから「着物で観劇」にもトライしてみたい
せっかくだから「着物で観劇」にもトライしてみたい

しかもこれが、時代によって変わるのだ。私の原風景である万葉時代の装束、平安時代の十二単、武士の鎧兜姿、そして江戸の粋な町人姿など、それぞれに違う魅力がある。ちなみに、男役は青天と呼ばれる前髪を剃り上げた鬘をかぶることも多い。元は見目麗しい乙女なのに、あの鬘が不思議とキマってしまうのはタカラジェンヌ七不思議の一つである。
また、細やかに描かれる人情の機微も日本物の魅力だ。これは「恐怖政治って何?」とか「スペイン内戦とは?」から始めねばならない洋物よりも、前提となる時代背景を説明する手間が少なくて済むことも大きいのではないかと思う。「織田信長が天下を取り、豊臣秀吉がこれを受け継いだ後、徳川家康が江戸幕府を開いた」ことや「坂本竜馬の仲介で薩摩と長州が手を組み、江戸幕府を倒した」ことなどは、みんな知っているという前提で話を進めることができるのだ。
その分の余裕で親子の情愛、あるいは主従の絆について深く描くことができる。また、往々にしてぶっきらぼうに行われる愛の告白も、日本物ならではのキュンポイントだ。

周りへの気配りが、着物姿をさらに素敵に見せます
周りへの気配りが、着物姿をさらに素敵に見せます

考えてみればこの日本物、タカラヅカ以外では観られないジャンルでもある。これはスタッフにもキャストにも「人財」がそろっているからできることだ。なにしろ出演者全員が音楽学校で日本舞踊を学んでいたり、新撰組の制服ともいうべき浅葱色の羽織をあれほどたくさん揃えていたりする劇団は他にないだろう。
能や文楽、歌舞伎などの伝統芸能は敷居が高くとも、タカラヅカの日本物であれば気軽に「和の文化」に触れた気分にもなれる。むろん洋物と日本物、両方観られるからタカラヅカは楽しい。どちらも大切に観ていきたいと思う。

中本千晶(なかもと ちあき)

1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。

『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)
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2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第8回「日々是カンゲキ」のテーマは、「母娘ファンは楽し」

親子でタカラヅカファンになると、とっても楽しい!
タカラヅカファンは、自らの子どもの宝塚デビューに悩み、はたまた自らが子どもの立場として両親をタカラヅカファンへ導くことだって親孝行?!
そんな家族と楽しむタカラヅカのあれこれを、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第8回「日々是カンゲキ」は2022年6月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
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