第4回
初心者大歓迎!
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第4回目は「初心者大歓迎!」です。ぜひご一読ください。
あらゆる演劇ジャンルの中でも、タカラヅカファンの新規顧客獲得に対する熱意の高さは一、二を争うのではないかと思う。定期的に初心者を誘うことをミッションとしている人もいるし、その際の作品解説ツールを作るマメな人も珍しくない。
そして、タカラヅカファンは初心者の反響をとても気にしている。『シャーロック・ホームズ』が世のシャーロキアンたちに高く評価されたことや、『CITY HUNTER』『柳生忍法帖』が原作ファンから好評を博したことを、ファンが大喜びしたのは記憶に新しいところだ。
ジャンルによっては新規ファンが歓迎されないこともあるらしく、別の「界隈」のファンの人から「タカラヅカは新規ファンの人に対してとても温かいのですね」などと驚かれたこともある。
この違いは何故起こるのか。それはおそらく、多くのファンが「タカラヅカそのもの」を愛しているからではないだろうか? つまり、たとえご贔屓のファンになってくれなくとも、タカラヅカそのものを愛する同志が増えればそれで良いのだ(ただし、これを読んでいる方で本日初めてタカラヅカを観劇した人は、お連れ様のご贔屓のことは褒め称えておいた方が、その後の人間関係は円滑だと思う)。
それでは何故、タカラヅカファンは「タカラヅカ・ワールド」への誘致行為にかくも熱心なのだろう? それには3つの理由が考えられる。
もちろん第一には、誘った友人の幸福を願う気持ちがある。この「夢の世界」の中であなたにもハッピーになって欲しい、ストレスを忘れて元気になって欲しいという願いである。だが人間、純粋に利他的な動機だけで行動するものではない。
第二は短期的に「自分のため」である。ともに楽しみ、語り合える友が欲しいということだ。気のおけないヅカ友と語り合う時間、それは至福のひとときであり、この時間が持てるか否かは人生における幸福度を左右するといって過言ではない。
そして第三には、より長い目で見た時の「自分のため」もある。自分の元気の素であり、幸福度を高めてくれるタカラヅカ・ワールドには、末長く続いてもらわねばならない。「我が心の故郷」に滅びてもらっては困る。そのために、一人でも顧客を増やさねばと思ってしまうのだ。
先日、『まちづくり幻想』という本を読んでいたら、その中に「地方の人口減少は衰退の要因ではなく、結果である」という言葉があって、確かにその通りだと腹落ちした。政府が躍起になっている少子化対策などは完全に順序が逆である。
人が幸福に生きられるところに、人は集まる。タカラヅカ・ワールドも然りで、そこが楽しいから人を引き入れるようとする力が働くのだ。地方再生や少子化問題を憂える人も参考になるモデルケースなのかもしれない。
かくいう私もこのような原稿をせっせと書き、タカラヅカ・ワールドの奥深さを伝えることで、その一端を担っているのである。え? 引いてしまいますか? それはマズイな…。
文中本千晶(なかもと ちあき)
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第5回「日々是カンゲキ」のテーマは、「組カラーは並びも大事」
ピンク・イエロー・グリーン・ブルー・パープル…この組み合わせで並んでいるモノを見つけると、ついつい反応してしまう。
ピンク・イエロー・グリーン・ブルー・パープル…この5色がそろっているのに、この順番じゃないと並べ替えたくなってしまう。
そんなタカラヅカファンなら思わず頷いてしまうようなあるあるについて、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストをお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第5回「日々是カンゲキ」は2022年3月以降の貸切公演にて配布予定。WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!