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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第2回「好きな人しか見えない!?」

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好きな人しか、
見えない!?

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第2回目は「好きな人しか、見えない!?」です。ぜひご一読ください。

「何度観劇しても、私が好きなあの人しか目に入らなくて…作品全体を見ることができないのです。どうしたらいいでしょう?」
そんな悩み相談を時々持ちかけられる。これを解決する策として挙げられがちなのが「観劇回数を増やす」という方法である。つまり、ある回は「好きな人に集中して観る回」、また別の回は「舞台全体を見る回」にするのだ。しかし、せっかく決めた自分との約束はいとも簡単に破られてしまうものである。
最近は、公演期間中にこれを矯正してくれる素晴らしいチャンスもある。「ライブ配信」である。ライブ配信のカメラワークは、視聴者の「最大多数の最大幸福」を目指しているから、このときばかりは「定番の目線」で見るしかない。もっともライブ配信でさえ、映像の中に一瞬だけ映り込むご贔屓スターを見逃さないという、人生において何の役にも立ちそうにない技を習得するだけで終わるかもしれない。
ゆえに、熟考に熟考を重ねた上での私の結論は、
「それは無理です。諦めて、今は好きな人をひたすら見つめ続けましょう」
身も蓋もない答えで恐縮だが、人の感情が理性では制御できないことは、かの名作『マノン』が示すとおりである。ひとたび恋に落ちた者は、情熱の赴くままに愛する人を見つめ続けるしかないのです。

左右逆だとオペラグラスお見合い事故になるパターン
左右逆だとオペラグラスお見合い事故になるパターン

一般に、舞台全体を見渡し、どの登場人物にも等しく関心を寄せることが「正しい観劇方法」であり、作品の「正しい理解」につながると思われがちだ。ゆえに、好きな人しか目に入らない自分は間違っているのだろうかと一抹の罪悪感を覚えてしまう。
しかし、「偏った見方」は果たして否定されるべきものなのだろうか? 考えてみれば、それもまんざら悪いことでもないような気がするのだ。
第一に「舞台全体をくまなく見渡し、どの登場人物にも等しく関心を寄せること」ができる人など本当は存在しないと私は思う。それは神の目線であり人間の目線ではない。
第二に、舞台全体を見渡すか、好きな人ばかりを見るかの違いは、花々の咲き誇る庭全体を愛でるか、虫眼鏡を使って花弁や葉脈などを細かく観察するかの違いとも言える。つまり、虫眼鏡だからこそ見えてくるものもあるはずだ。
たとえば、殺陣で斬られまくる下級生をオペラグラスで追っていれば、斬られ役の美学を感じ取れるだろう。シトワイヤン目線から眺めるフランス革命はオスカルやロベスピエールとはまた違うし、ロミオとジュリエットをめぐる悲劇の傍らではヴェローナの若者たちが一皮むけた大人へと成長を遂げていく物語があるのだ。
そして、ここからが大事なところなのだが、そういう日々にもいつか必ず終わりが来るのがタカラヅカの宿命だ。だからこそ、限りある時間を慈しみ満喫した方がいい。そして、そこで発見した「斬られ役の美学」や「第三身分から見たフランス革命に関する一考察」などは、その後の観劇人生をきっと豊かなものにしてくれるだろう。

劇場の外でも「好きな人の好きなもの」しか見えない
劇場の外でも「好きな人の好きなもの」しか見えない

中本千晶(なかもと ちあき)

1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)、12月2日発売予定。

『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)
タカラヅカの解剖図鑑
詳説世界史
2021年12月2日発売予定
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
購入はこちら

イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSでの4コマ漫画を連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)
いつも心にタカラヅカ!!
読んで楽しむ宝塚歌劇演目ガイド123選
2021年8月発売
牧彩子 著
宝塚歌劇の人気演目から知られざる名作まで、あらすじ・見どころ・ツボを楽しく解説します!
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次回予告

第3回「日々是カンゲキ」のテーマは、「“ヅカ筋”を鍛える!」

“ヅカ筋”とは一体なにか?タカラヅカファンには“ヅカ筋トレ”に余念がない人が多い!?
そんなタカラヅカファンなら思わず頷いてしまうようなあるあるについて、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストをお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第3回「日々是カンゲキ」は12月以降の貸切公演にて配布予定。WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご覧ください!