松竹創業百三十周年
新春浅草歌舞伎
はじめにintroduction
“若手歌舞伎俳優の登竜門”として、次代の歌舞伎界を担う花形が顔を揃える『新春浅草歌舞伎』。
2025年1月は装いも新たに、今をときめく花形俳優による新年の幕開けを彩る舞台にご注目ください!
次代の歌舞伎界を担う花形が顔を揃える『新春浅草歌舞伎』は、”若手歌舞伎俳優の登竜門”として40年以上の歴史があり、初春行事として定着し、浅草の正月の風物詩として広く愛され親しまれています。若手が大役に真摯に取り組み、互いに切磋琢磨する成長、飛躍の場としてはもちろんのこと、歌舞伎の伝承という意味合いでも「新春浅草歌舞伎」は重要な役割を担っています。
2025年の「新春浅草歌舞伎」では、装いも新たに中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松という若手俳優が、エネルギー溢れる熱い舞台をお届けいたします。
新春の浅草でしか観ることのできない熱気溢れる歌舞伎の舞台を、是非ご堪能ください!
【演目】
《第1部》
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、絵本太功記(えほんたいこうき)
尼ヶ崎閑居の場
仮名手本忠臣蔵
二、道行旅路の花聟(みちゆきたびじのはなむこ)
落人
《第2部》
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
二、絵本太功記(えほんたいこうき)
尼ヶ崎閑居の場
岡村柿紅 作
三、棒しばり(ぼうしばり)
インタビューINTERVIEW
光秀と久吉を演じたい
2025年1月2日に始まる浅草歌舞伎は、昨年に続く出演である中村橋之助さん、中村莟玉さんに加え、中村鷹之資さん、中村玉太郎さん、尾上左近さん、中村鶴松さん、そして染五郎さんが新たに出演されます。お話がきたときはどのように思われましたか。
市川染五郎 浅草歌舞伎のメンバーが変わるということは聞いていましたが、もう少し上の世代のお兄さん方がされるのかなと思っていましたので、自分が入らせていただけるとはと驚きました。とはいえ、(尾上)左近くんも18歳で自分とは年齢が近いので、一緒にお兄さん方の中に入れていただける、というのはとても嬉しいことです。出演については父から聞きました。父自身は3回ほどしか浅草歌舞伎に出演したことがなく、あまり細かなことは聞けなかったのですが、「続けて出させていただけるよう、頑張りたいね」という話をしました。
染五郎さんは第1部の『絵本太功記』では武智光秀、第2部の同演目では真柴久吉を演じます。演目や役柄について詳しくお伺いできますか。
市川染五郎 『絵本太功記』は、明智光秀が本能寺の変で織田信長を討ってから、豊臣秀吉に敗れるまでの数日をモチーフに描かれた作品です。僕が第1部で演じる光秀(武智光秀)は、もともと高麗屋が得意としてきた線の太い役。このような役に挑戦できることを嬉しく思っています。今回は、昼夜で同じ演目をWキャストで行うところも大きな見どころで、僕は橋之助お兄さんとのWキャストです。比較される不安やプレッシャーはありますが、それも良い意味での勝負ととらえ、臨みたいです。
染五郎さんは子どもの頃から光秀がお好きだったと聞いています。どんなところに惹かれていたのでしょうか。
市川染五郎 光秀は、史実でも秀吉の影に隠れた存在であり、本能寺の変にしても謎が多い。僕は昔からそんな、謎の多い人物に惹かれるところがあります。今回の『絵本太功記』で描かれる光秀は、(中村)吉右衛門の大叔父がよくやられていたお役ですが、最後におやりになったのは、歌舞伎座で父(幸四郎)が十次郎を演じた2019年。当時の僕は中学生くらいでしたが、2階の一番後ろの席で見ていました。大叔父は最初に笠で顔を隠して出てくるのですが、笠を下ろして顔が見えた瞬間、鳥肌が立ったことを覚えています。2階の一番後ろまで飛び出してくるような、ものすごい迫力が忘れられなくて、僕は大叔父が演じた役の中で一番好きといってもいいくらいです。
光秀役は祖父(松本白鸚)から教わる予定ですが、稽古はまだこれからです。光秀は偉大な武将であり、同時に親も息子も失ってしまうという悲劇的な人生を送った人物。そんな光秀の「凄み」のようなものまで出していけたら。また、光秀の独特なこしらえやお化粧など、迫力あるビジュアル面にも注目していただければと思います。
第2部ではこの光秀と表と裏のような存在である、久吉(真柴久吉)を演じます。光秀がひとりで登場するのに対し、久吉は終盤に何人もの家来を引き連れて華々しく登場します。どちらも同じ偉大な武将でありながら、まさに影と光のような対比をなすふたりをしっかりと演じていきたいです。
ドリフのコントもヒントに
第2部『棒しばり』は、主人が留守の間に、太郎冠者と次郎冠者が勝手にお酒を飲もうと画策する……というややコミカルな舞踊劇です。染五郎さんが太郎冠者、(中村)鷹之資さんが次郎冠者をつとめますね。
市川染五郎 『棒しばり』は、タイトル通り棒に縛られ、手の動きを封じられた状態で踊らなければならないコミカルな雰囲気の舞踊です。こちらは言葉がわからない海外のお客様がご覧になっても伝わるような、理屈抜きで楽しめる作品かと思います。舞台は、演じる側が楽しまないとお客様には届かないものだと思っていますが、同時に技術的な部分もきちんと押さえないと、ただバタバタしているだけで歌舞伎にならない…という事態も起こりえます。舞踊は振り付けを覚えるところから始まりますが、やはりお芝居であることには変わりないので、しっかりと気持ちを乗せて踊りたいです。太郎冠者は父に教わります。次郎冠者を演じる鷹之資お兄さんは踊りが上手な方。『棒しばり』はご自身の勉強会でもなさっていますので、なんとか喰らいついていきたいです。
『棒しばり』には酔っぱらいのお芝居も出てきますが、染五郎さんはまだお酒は召し上がりませんね。何をヒントにされますか。
市川染五郎 ヒントは…ドリフターズのコントですね。ドリフが好きなので、加藤茶さんや志村けんさんの酔っ払い姿を改めて見直してみようと思っています。
コミカルなお芝居といえば、今年は2月の博多座で初演を迎え、8月には歌舞伎座でも演じられた舞踊劇『鵜の殿様』での大名役も大好評でした。
市川染五郎 確かに空気感は近いかもしれません。『鵜の殿様』も、ドリフの忠臣蔵松の廊下をモチーフにしたコントでの、(浅野)内匠頭である加藤茶さんが、(吉良)上野介役の志村けんさんの長袴を引っ張って転ばせて…というシーンには重なるところがありますね。『鵜の殿様』で経験したことも、活かせたらと思っています。ただ、単にふざけているだけに見えてはいけませんし、役者の技術や見せ方で面白く見せるということは意識しつつ、お客様に笑っていただける、楽しんでいただける舞台を作ることを目指していきたいです。今回はお正月から歌舞伎らしい歌舞伎を楽しんでいただける、バランスのよい演目立てだと思います。
お参りに行っています
2025年公演で共演されるみなさまとはもう会われましたか。
市川染五郎 演目が決まる前に一度みなさんにお会いしましたが、そのときは本当に顔合わせという感じで。ただ、左近くんとは9月の「秀山祭九月大歌舞伎」で『妹背山婦女庭訓 吉野川』という作品をご一緒していて、こちらも「本当に大きな作品にふたりで飛び込んだな」という感覚がありましたので、浅草歌舞伎の演目が決まったときは、「お互い幅広い3役だね、頑張ろうね」という話をしました。
初めて浅草歌舞伎に出演しますが、毎年1月は親子三代、歌舞伎座に出演する機会が多く、実はまだ浅草歌舞伎自体を拝見したことがありません。僕たち歌舞伎役者は、元旦はご挨拶まわりがあり、2日からはもう公演が始まってしまいますので、初詣に行く機会もなかなかなくて。代わりに大晦日に浅草寺にお参りに行くというのが我が家の恒例行事になっています。お参りをすると、その1年のよかったことも悪かったことも、全てリセットして新年を迎えられる、そんな気がします。小さい頃は、仲見世でいろいろなものを買ってもらいました。お芝居ごっこに使う小道具の刀や笠、獅子の赤い毛……もちろん本物ほどボリュームはありませんが、それでもそれを振り回して遊んでいたことはよく覚えています(笑)。
若い方ばかりの楽屋は毎年大変賑やかなようです。
市川染五郎 自分はどちらかというとひとりが好きなタイプではあるのですが、左近くんとは近年一緒になることが多いですし、鶴松さんとは「三谷かぶき」でバディのような役をやらせていただいたこともあります。莟玉さんとも何度か相手役としてご一緒したことがあり、それぞれに思い出があります。一方、橋之助お兄さんや鷹之資お兄さんとはまだあまり舞台でガッツリご一緒したことがありませんので、この機会にご一緒できるのを楽しみにしています。
2024年は「壽 初春大歌舞伎」に始まり、多くの歌舞伎作品に出演され、また映像作品の公開もあったりと密度の濃い一年だったのではないかと思います。最後はそんな染五郎さんの息抜きや楽しみについて教えてください。
市川染五郎 昔から仏像やフィギュアを集めるのが好きで、20体くらい持っています。中でもホットトイズさんという会社のフィギュアは、顔の造形や衣装の細いところまでがものすごくリアルに作られていて…縮尺は1/6くらいかな? ここのフィギュアが好きでたくさん集めています。僕は『バットマン』シリーズの悪役・ジョーカーが好きなのですが、近々このホットトイズさんから新しいジョーカーのフィギュアが発売されることになっていて…早速予約しました(笑)。届くのは来年ですが、今から楽しみにしています。
(取材・文/小川聖子 撮影/森 浩司)
チケットTICKET
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