音楽劇
歌妖曲
~中川大志之丞変化~
INTRODUCTIONはじめに
昭和歌謡版リチャード三世と美貌の歌手を縦横無尽に変化!
主演は、今作が本格的な舞台に初挑戦で初座長を務める中川大志。醜い風貌と不遇な宿命を背負い、大衆芸能・歌謡界で悪逆の限りを尽くす主人公「鳴尾定」が、美貌の歌手「桜木輝彦」となり歌謡界を席巻するも、破滅の道へ突き進む、昭和歌謡版リチャード三世を縦横無尽に演じます。
タイトルに自身の名が入っている通り、中川へ当て書きされた今作。「LIFE!~人生に捧げるコント~」で中川を知り尽くした倉持、そして「“三銃士企画”の趣旨であるスペクタクルやケレン味にハマる俳優として、これまでに見たことのないスーパーキャラクターを演じられると確信している」と語る《三銃士》の期待を背負い、新たなステージに挑みます!
共演には、鳴尾家に怨恨を抱くレコード会社の女社長・蘭丸杏役に松井玲奈、鳴尾家の長男で期待の新人歌手・鳴尾利生役に福本雄樹、裏社会でのし上がるために後に定と手を組むこととなるチンピラ・徳田誠二役に浅利陽介、鳴尾家の愛娘でスター街道を邁進中の一条あやめ役に中村 中、『鳴尾プロダクション』を文字通り裏から支える『薮内組』三代目組長・大松盛男役に山内圭哉、元映画スターで『鳴尾プロダクション』社長・鳴尾勲役に池田成志と、数多の舞台で活躍する超実力派たちが勢ぞろいしました。さらに福田転球、玉置孝匡、徳永ゆうき、中屋柚香、長田奈麻、香月彩里、四宮吏桜と手練れたちも集結。初座長となる中川を時には支え、時には惑わせ、『歌妖曲』の世界を創り上げます!
STORYあらすじ
唄と殺しの華麗なるショーが幕を開ける。
昭和40年代の歌謡界に彗星のごとく登場し、瞬く間にスターダムに駆け上がった桜木輝彦(中川大志)。
そのベールに包まれた経歴の裏側には、戦後の芸能界に君臨する「鳴尾一族」の存在があった。
元映画スターの鳴尾勲(池田成志)が手掛ける、愛娘の一条あやめ(中村 中)と愛息の鳴尾利生(福本雄樹)は、スター街道を邁進中。
フィクサー・大松盛男(山内圭哉)が控え、今や世間からは、大手芸能プロダクションと謳われていた。
だが、そんな鳴尾一族にあって、存在を闇に葬られた末っ子がいた。
ねじ曲がった四肢と醜く引きつった顔を持つ、鳴尾定(中川大志)。
一族の汚れとして影の中で生き長らえてきた定は、闇医者の施術により絶世の美男子・桜木輝彦に変身を遂げ、裏社会でのし上がろうとするチンピラ・徳田誠二(浅利陽介)と手を組み、同じく鳴尾家に怨恨を抱くレコード会社の女社長・蘭丸杏(松井玲奈)と政略結婚し、自身の一族に対する愛の報復を始める。
その血に……運命に……復讐を遂げるべく、桜木輝彦による唄と殺しの華麗なるショーが幕を開ける───。
REPORT制作発表レポート
前列左より) 浅利陽介、松井玲奈、中川大志、福本雄樹
後列左より) 倉持裕、山内圭哉、中村中、池田成志、徳永ゆうき
音楽劇「歌妖曲~中川大志之丞変化~」制作発表レポート
中川大志さんは緊張の面持ちで挨拶
いよいよ今週から稽古がスタートするということですが、まずは今回の作品の作・演出を手掛けます、倉持裕さんからご挨拶をお願いします。
倉持裕(作・演出/以下、倉持) 本日は皆様お集まりいただきありがとうございます。今作は、プロデューサーチームの“三銃士”の皆さんから、中川大志さん主演で、シェイクスピアの「リチャード3世」のプロットを使って、昭和歌謡界を舞台にしたお芝居をやってみませんかというご提案をいただきまして、「それは面白そうだ!」ということでスタートした企画です。ストーリーは、醜い見た目のせいで虐げられてきた「鳴尾定(なるお・さだむ)」という男が、ある恐ろしい方法で美しい姿を手に入れ、その体を使って「桜木輝彦(さくらぎ・てるひこ)」という芸名で芸能界デビューを果たす。その後、芸能界でのしあがりながら、それまで自分を冷遇してきた芸能一家に仕返ししていく……といういわゆる復讐劇です。見どころは、生バンド演奏と、出演者の皆さんの歌謡ショー、歌唱シーン、あとは中川くんの、鳴尾定と桜木輝彦の演じ分け……と言ったところでしょうか。どうぞご期待ください!
ありがとうございます。それではキャストの皆さんからそれぞれ「意気込み」をお願いします。まずは、歌謡界で悪虐の限りをつくす鳴尾定と美貌の歌手・桜木輝彦を演じる、中川大志さん。
中川大志(以下、中川) 本日はお集まりいただき、ありがとうございます。中川大志です、よろしくお願いします。今日はこうして出演者の皆様と初めて顔合わせをさせていただいたのですが、久々に震えるくらい緊張しています(笑)。僕自身本格的な舞台は初めての挑戦なのですが、遡ること3年ほど前、“三銃士企画”の一作目を明治座で観劇させていただいて、そのときにプロデューサーの皆様にお手紙で「次の舞台を一緒にやりませんか」とお声がけいただいたところからのスタートでした。その後、1年半くらい前から、この作品に向けてボイストレーニングを始めるなど、少しずつ準備をしてきまして、いよいよ今週から稽古が始まるところまで来たんだなと、感慨深く思っています。わからないこともたくさんありますし、未知の挑戦になります。僕自身、知らない自分にたくさん出会えたらいいなと思っています。一生懸命演じますので、よろしくお願いいたします。
続いて、鳴尾家に怨恨を抱くレコード会社の女社長・蘭丸杏(らんまる・あん)を演じます、松井玲奈さん。
松井玲奈(以下、松井) 松井玲奈です。私が演じる役は、とてもかっこよくて、強くて、悪い女性のイメージがあります。稽古をしていく中で、彼女の正義と悪を私自身も理解して、お客様にかっこいい女性を見せていきたいと思っております。本番を楽しみにしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
続いて鳴尾家の長男で期待の新人歌手・鳴尾利生(なるお・としき)を演じます、福本雄樹さん。
福本雄樹(以下、福本) 福本雄樹です。よろしくお願いします。この作品は「リチャード3世」が元になった復讐劇ということで、人間の醜いところや愚かなところがたくさん出てきます。今、コロナがいつ終わるかわからない状況で、僕たちもまたマイナスの感情を抱えていると思いますが、そんなときにこの作品を見て、少しでもスカッとして、後ろむきの気持ちが浄化されれば嬉しいです。
山内さんの冗談に会場爆笑!
続いて、中川さん演じる定が、裏社会でのしあがるために手を組むチンピラ・徳田誠二を演じます、浅利陽介さんお願います。
浅利陽介(以下、浅利) 徳田誠二を演じます、浅利陽介です。僕は大志くんが演じる定の「セコンドー役」というか、公私共にそんな関係になれればいいな、なんてことを思っています。昭和の作品、僕は大好きなのですが、それは僕から見るとすごく素直に「欲」に向かっている人がたくさんいた時代、そんな雰囲気を感じているからです。ですから、そんな空気感をこれからの稽古で作り上げていくのがとても楽しみです。それから音楽がね、毎回あるので、僕もおそらく新鮮な気持ちでその音楽にのりながら、作品の雰囲気を出していければいいなと思っています。よろしくお願いします。
次に、鳴尾家の愛娘で、スター街道を邁進中の一条あやめを演じます、中村中さんです。
中村中(以下、中村) 一条あやめを演じます、中村中と書きまして「なかむらあたる」です。よろしくお願いします。今回は歌謡曲、キャストもみんな歌うということですが、歌というものは、やっぱり不安があったり、不満があったり、いつの時代もそんな憤りや憧れから生まれてくるものだと思っています。「歌は訴える」ともいいますし……ですので、音楽劇「歌妖曲~中川大志之丞変化~」をご覧になった方も、歌う側である私たちも、最高のうさばらしになるよう、暴れまわろうと思っています。ぜひ楽しみにしていてください。
そして、鳴尾プロダクションを文字通り裏から支えます、薮内組3代目組長・大松盛男(おおまつ・もりお)を演じます、山内圭哉さん。
山内圭哉(以下、山内) 皆様ご苦労様でございます。コロナ禍のなか、演劇界はかなり厳しくやっています。とにかく全公演無事に終えること……まぁそれでなくとも昨今は、不祥事や“コンプラ違反”など色々ありますので……もう私も帯を締め直してですね(会場爆笑)、この公演に挑みたいと思っています。ご静聴、ありがとうございました(笑)。
続いて元映画スターで今作の“ラスボス”的存在でもあります、鳴尾プロダクション社長・鳴尾勲(なるお・いさお)を演じます、池田成志さん。
池田成志(以下、池田) こんにちは、池田成志です。あらすじを読ませていただきましたが、昔、松尾スズキさんのお芝居で稽古をしていたときに、「お客様はどんな反応になるだろう」と思っていた舞台があったんです。それが、いざ公演が始まってみたら大受けで……。思いがけない反応が返ってきて、「ああ、お芝居は自分が思っていた反応と違うこともあるんだな」「自分と人とでは受け取り方が違うものもあるんだな」ということを強く思いました。今回も、最初からこういう話だと先入観を持たずにやりたいと思っています。私は今年還暦になるのですが、そんなことを改めて思い、これからは生まれ変わって生きていこうと思っていますので(笑)、どうぞよろしくお願いします。
それぞれが演じるキャラクターとは?
では、中川さんからお願いします。
中川 僕が演じる「鳴尾定」は、生まれつき顔も体も醜い男で、鳴尾一族からも世間からも負の存在として隠され、閉じ込められていた男です。その男が色々な手段を使って「桜木輝彦」という姿に生まれ変わり、復讐をしていく……。同じ人物なのですが、見た目が正反対になるキャラクターになります。僕が台本を読んで想像しているのは、鳴尾定としての姿が桜木輝彦に及ぼす影響、そしてその逆……。「一方の姿がもう一方の姿に影響を及ぼす」、そこがこのキャラクターのテーマになるのではないかと想像していますので、とにかくどれだけ「鳴尾定」として、自分のなかに憎しみや怒り、悲しみのエネルギーを溜め込めるか、自分のこととして溜め込められれば溜め込められるほど、それが「桜木輝彦」として光を浴びた時のエネルギー源になるのではないかなと想像しながら、いま台本を読んでいます。
松井 私が演じる「蘭丸杏」という役は、悲しさや悔しさを長い間ずっと抱えている女性なのですが、その「負の感情」を、自分にとっての正義として、復讐したい相手にぶつけていく。負の感情をたくましく剣のように振りかざす、そんな女性なんじゃないかなと今は思っています。
福本 僕が演じる「鳴尾利生」という役は、中川さん演じる「鳴尾定」の兄で、定の希望でもあるような存在、スターではあるのですが、実は自分に自信が持てなかったりという普通の青年のような悩みを抱えている存在でもあります。それでもスターでいなければならない葛藤を抱えた男なのだと思っています。
浅利 「徳田誠二」という役を演じますが、今僕はその彼のエネルギーの源になるものを探しているところです。ざっくりいうと「彼は親族がいない人」。だから、ご飯を食べたり、何かよい思いをするためには自分一人でどうにかしなければならない、というそんな人です。だから、常に死ぬこととは隣り合わせ……なのかどうかは、正直想像が及ばないところもありますが……。鳴尾一家や作品を外側から見たら、少しいいところもあるのかな、見え方として……とは思っています。今、少しずつセリフを声に出して練習する中で、彼にはちょっと「べらんめえ」のしゃべり口調があり……これは自己満足的ではありますが、しゃべっていると心地いいです(笑)。
中村 私は「一条あやめ」という役を演じますが、彼女は鳴尾家に生まれながらも、いまひとつ愛情が足りていないと思いながら過ごしている人間じゃないかと思っています。スターの役ということなので、表舞台に出ているときと、日常で過ごしているときのギャップを出せたらいいのかなと思っています。一条あやめの夫役の福田さんと、うまくコミカルな夫婦感を出せたら楽しくお話が進んでいくかな、と思っていますが、そこは同時にプレッシャーを感じている部分でもあります(笑)。姿が見えているところは華やか、でも水面下では溺れないようになんとか生きていきたいというか、人に認められたいからこそ、彼女はスターになりたいのでは、と思っています。
山内 私はヤクザの役ですね。昭和の芸能において(ヤクザは)はほぼほぼイコールのような感じですよね。いわば鳴尾プロダクションの、「ケツもちをしている」という存在ですが、そのあたりは非常に昭和的なので、そんな時代感みたいなものを表現できたらと思っています。
池田 僕は「鳴尾勲」という父親役です。最近は頑固でどうしようもない父親役が多くて、正直「また父親か」とも思っているのですが(笑)。このあらすじや背景を見ていると、昭和らしいというか、「大映テレビのようだな」と思うんですね。ですからあまり複雑なことは考えずに、振り切って演じていってもいいのかなと思っています。
「仮タイトルかと思っていた」
今作はシェイクスピアの「リチャード3世」をプロットにしたということですが、倉持さんは中川さんを主演に、「当てがき」をされたという感じでしょうか。
倉持 中川くんは、そうですね。最初にプロデューサーから中川くん主演でと言われたときは、まだ中川くんは決まっておらず、「中川くんを口説こう!」という感じでした。ですから、「中川くんがやったら面白いんじゃないか」というあらすじを一生懸命作ってオファーした、という感じですね。それで中川くんがOKしてくれたので、そこからは中川くん当てがきで書いていきました。
中川さん、「当てがき」ということですが。
中川 あ、はい、そうですね! 倉持さんとは以前コント番組でご一緒させていただいたことがあるのですが、こうして自分の主演舞台で、作・演出でご一緒できるとは思ってもみなかったので、とても嬉しいです。今年も倉持さんの舞台を2作品見せていただいたのですが、また今作とは色の違う作品だったので……。いま、台本を読んでイメージしているところから、まだ変わる可能性もあるのかもって。作品も自分も、どんなふうに変わっていけるのか、というところも含めて楽しみにしています。
そして、今作のタイトルは「歌妖曲~中川大志之丞変化~」。なかなかご自身の名前がタイトルになる経験をされる俳優さんはいらっしゃらないですよね?
中川 はい。本当に最初は仮のタイトルかなって思っていたんですね。それが本タイトルとして発表になっていたので、ちょっとドキドキしています(笑)。
倉持さん、そこはどうしてもお名前を入れたかった、ということなのでしょうか。
倉持 そこはもう、「必ず入れたい!」というのは、三銃士たっての希望でしたから。「じゃあ入れましょう!」ということで決まりました。
倉持 「リチャード3世」を翻案……とまでは思っていないのですが、力強く骨太な筋立てをお借りしたいと思いました。中川くんはいろいろできますよね。見るたびに違う俳優さんで、声優をされていたときは後で聞くまでわからなかったり。何にでもなれる方だと思っています。コント番組でも本当に色々な役をやってくれて……恥ずかしがらずに行くところまで行く、そういうことをしてくれていたので、何にでも「なりきれる人」なのだなと思っています。今回も、明治座、座長と言われたら、それになりきれる人だと思っていますので、そこは信頼しているので任せたいと思っています。
宣伝部長としてサプライズ登場!
徳永 本日はお忙しい中お越しくださってありがとうございます。本作の宣伝部長に就任しました、徳永ゆうきです。よろしくお願いします。
中川 あの、もちろん、キャストとして徳永さんがいらっしゃることは承知していたのですが、宣伝部長というのは……あとその法被が気になるのですが。
徳永 はい!そうなんです、法被も作っていただいて……いい質問! (会場笑)
中川 あ、ありがとうございます!(笑)
徳永 宣伝部長としてはですね、今後SNSなどで稽古場のオフショットなどを私がパシャ! と撮影しまして、皆様に貴重な姿を届けていきたいと思っております!
中川 本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。こうして皆様の前に今日初めて立ちまして、いよいよ始まるんだな、始まってしまうんだなという気持ちで、背筋が伸びる思いでいます。僕自身、念願かなって舞台の上でようやくお芝居ができることに感謝したいと思っています。この昭和の芸能界の時代は、僕の世代からするとすごく新鮮なところがたくさんあります。今にはないエネルギーだったり、ファッション、音楽というカルチャーがすごく色鮮やかでポップでカラフル、そういう印象があります。そこに、血なまぐさというか、人間の内からにじみ出てくる匂いだったり、温度だったりを乗せて、見てくださる方の深い部分に響くような、エネルギーのある、熱量のある舞台になればと思っています。僕自身も「鳴尾定/桜木輝彦」として大千秋楽を迎える頃には、一体どんな景色が観られるのか……。先輩方の胸を借りて精一杯努めさせていただきます。がんばります!! いい舞台にします!!
INTERVIEW中川大志さん インタビュー
俳優・中川大志さん
初舞台にして初座長を務める俳優・中川大志さんに、作品にかける意気込みや役作りについて聞きました。
エネルギッシュな作品です
まずは脚本を読まれた印象や、作品の魅力について教えてください。
はい。ベースは「リチャード3世」というシェイクスピアの有名な戯曲です。ハードでディープな復讐劇であるこの作品を「昭和歌謡」や「昭和の芸能界」と結びつけて舞台にする、というお話は当初からうかがっていたのですが、正直それがどんな形になるのかはちょっと想像がつかなかったんですね。でも、仕上がった脚本は、華やかな中に血なまぐささが感じられるような、すごくエネルギッシュなもので……人間の内面の深い部分がえぐられるような、そんな残酷さも持ち合わせた作品になっていました。舞台になっている昭和という時代自体がまず、すごくエネルギッシュですよね。とても色鮮やかというか、僕らの世代から見たら、ファッションにもカルチャーにもパワーがあって新鮮に感じます。芸能界の仕組みも、今より表舞台と裏舞台の差が大きいというか……。表には決して出てこない「闇」の部分が大きい気がするので、そんな「光と闇」という部分がテーマなのではと思いました。僕自身が、この昭和の時代の世界観に浸って(お芝居ができたら)楽しいなと思っています。
中川さんが演じる「鳴尾定(なるお・さだむ)/桜木輝彦(さくらぎ・てるひこ)」は、生まれ持った醜い容姿から一転、輝くばかりの美貌を手に入れ、芸能界でのし上がっていく、という役どころです。どんなふうにアプローチしていかれますか。
時代背景も含めて、「鳴尾定/桜木輝彦」は自分が決して経験できない状況を生き抜いてきた人物です。ただ、これはどんな役でもそうですが、役づくりにおいては、それがほんのわずかであったとしても、結局は自分自身との共通点やつながりを“梯子”にしていくしかないと思っています。ですから、今回、「鳴尾定/桜木輝彦」を演じるにあたっては、やっぱり自分自身のトラウマだったり、過去だったり、そういう記憶に触れていかないといけないだろうなとは思っていて……。それがやっぱり、「彼を知る」「自分のこととして彼を知る」ということになると思っています。それは大変きつい作業で、もしかしたら出口の見えないトンネルにいるような時間になるかもしれないのですが、それでも役者としてはやっぱり、しなければならない作業だと思っています。
怯まずに新しい挑戦をしていきたい
中川さんは、意外にも本格的な舞台作品は初めて。実は以前から興味を持たれていたと伺いました。
もともと僕は3歳の頃からダンスをやっていて、年に1、2回は舞台に立つ機会があったんです。その頃はただ、わけもわからず楽しくやっていただけではあるのですが、もともと人を驚かせたり、笑わせたりするということは好きだったんでしょうね。その中でも、眩しい照明を浴びて、舞台の上から直接お客様のリアクションを感じる……という記憶は自分の中に鮮明に残っていました。だからぜひ、お客様の前で、自分自身もアドレナリンを出しながら思い切りお芝居をしてみたい、という希望はずっと持っていました。今回こうして挑戦できることになって、本当にありがたいと思っています。
初舞台にして初座長。そして、それが長い歴史のある「明治座」というところがすごいですね。中川さんは現在24歳ですが、同世代の方たちの中にはこれを機に「舞台を見てみよう」と思う方がいらっしゃるかもしれません。
そうですよね。確かに同世代なら、まだ本格的な舞台作品を観たことがないという方がいるかもしれません。明治座は来年で100周年を迎える歴史ある劇場で、僕自身お客としてお芝居を観せていただいたこともある劇場ですが、とてもパワーがある場所です。そんな空間でお芝居を観るだけでも貴重で尊い時間ですから、ぜひたくさんの方に足を運んでいただきたいです。そして、そんな舞台に僕が立つなんて……僕自身もまだ「ことの重大さ」をすべて理解できていないのですが(笑)。とにかく先人の皆様が積み上げてきた場所に恥じないよう、失礼がないよう敬意を払って作品を作るのは大前提として、その上で「今この時代にしかできない」という新しいエンターテインメントを目指していきたいと思っています。そのためには、僕もあまりビビらずに(笑)、しっかりとチャレンジをして、新しいエネルギーを生んでいかないとですね!
これからの稽古の中で、共演者の皆さんと舞台を作り上げていくのですね。
はい。僕自身、今まで映像の仕事が多かったので、こうやってカンパニーの皆さんと毎日顔を合わせて、一緒に作品を作り上げていくという経験は初めてで、とても楽しみにしています。ただ、「カンパニーの空気を僕が作っていこう!」などとは考えられなくて……正直まだそんな余裕はないです(笑)。それよりは、まずは役をどこまで深めていけるか、というところから精一杯やっていきたいと思っています。そしてもちろんチームとしての繋がりは大切にしていきたいのですが、その反面、どこかでやはり僕自身は孤独に耐えなければ、と思うところもあり……。僕が演じる「鳴尾定/桜木輝彦」というのは、ものすごく孤独な男ですから、そんな孤独を感じ、それに耐える時間は役のためにも大切なのではと思っています。
しっかり備えて臨みたい
今回は「音楽劇」ということで、皆さんの歌唱も楽しみです。中川さんはご自身もギターを弾いたりもされますし、歌もお上手ですよね。
いえいえいえ(笑)。ただ今作の楽曲は、ものすごくカッコいいです! 昭和の歌謡曲をテーマに作られている楽曲で、その時代らしい香りというか、艶っぽさというか、そういうものも感じられますし、それに生バンドも入りますから、すごく見応えがあると思います。今回の楽曲は、作・演出の倉持裕さんが作詞まで手がけていらっしゃるので、キャラクターが見ている風景だったり、心に抱く言葉だったりがしっかりと盛り込まれています。僕自身、歌うことで役とひとつになれればいいなと思っています。なるべく深く歌詞を理解して、役になり切ればなり切るほど、歌やパフォーマンスにも変化が生まれてくるのではないかと思っているので、そのあたりもしっかり頑張りたいですね。
1年半ほど前からボイストレーニングを始めたとおっしゃっていましたね。
そうなんです。そこはかなり早い段階から始めさせていただきました。最初は歌うための体作りと言いますか、基礎的な発声だったり、呼吸だったりというところから始めて。体が楽器だとしたら、その楽器の強度を高めていくというようなトレーニングを重ねていきました。最終的には、お芝居の中で役の感情を乗せて歌う、しっかりと感情を扱うところまでいくことが目標ですが、一番悔しいのは、感情があっても体がついてこない……という状況です。だから、とにかく体力! 体力をつけて行かなければと思っています。1日に2公演ある日もありますし、全48公演48ステージ、お芝居をして歌を歌うということが、どれだけ大変なことか。それがまだ僕自身ピンときていないところもあって……。それはトレーニングをする中でも、そもそも経験がないことなので、やってもやっても安心はできないですよね。
ハードな日々になりそうですね。ちなみに、昭和時代の歌手の方で、すぐに思い浮かぶ方はいますか。
井上陽水さん、山口百恵さん、テレサ・テンさん……僕は昔ながらの“スナック”が好きで、そこにいらっしゃる昭和世代の方たちの歌を聞かせていただく機会が意外とあるんですよ(笑)。そこで思うのは、その時代の歌手の方たちは、光を浴びて、ステージに立ってマイクを持つまでの時間というのが非常に濃厚で、だからこそ聴く側も、そこにその歌手の人生だったり、背負っているものの大きさを感じ、音楽をまるごと受け取っているのではないか……ということ。僕もそんなふうに、役が背負っている背景ごと、音楽に乗せていけたらと考えています。
最後に。会見では、「鳴尾定/桜木輝彦」という正反対の見た目を持ったキャラクターがお互いに影響し合う、鳴尾定の苦悩やコンプレックスが桜木輝彦を輝かせるエネルギーになる、とお話されていました。では、中川さんご自身が役に向かうパワーはどこからきているのでしょうか。
うーん。ひとつはやっぱり「お客様」ですね。映像も演劇も、作品はお客様に観てもらえて初めて完成するものだと思っていますので、やっぱりお客様がいなかったら、どんな作品にも向かっていけないと思います。もうひとつは、今回の「鳴尾定/桜木輝彦」ではありませんが、お芝居はいいことも悪いことも、ポジティブな感情もネガティブな感情も、利用していけるという側面があるんですね。僕の人生において、どんなに苦しいことがあっても、悲しいことがあっても、自分の感情をお芝居に変換していくことができる、ということは実はすごく大きなことで。もちろん、その「術(すべ)」は持っていなければならないし、苦しいこともたくさんありますが、「感情を扱うという仕事の面白さ」が、自分の場合は役に向かうエネルギー源になっていると思います。